2024年11月に行われた衆議院選挙を経て、「103万円の壁」が「178万円の壁」に引き上げられる可能性が話題となっています。会社員の配偶者などがパートやアルバイトとして扶養の範囲内で働く場合に意識する年収の壁には、税制上の壁や社会保険上の壁があります。この壁を超えると税金や社会保険料の負担が生じることから配偶者等の就業抑制の一因になっていると言われています。
◆税金に係る年収の壁
年収103万円の壁は、一言でいうと「所得税の壁」です。基礎控除48万円と給与所得控除55万円を足すと103万円となり、ここまでは所得税がかからないことから「103万円の壁」と言われます。
もう一つ、103万円は扶養控除が適用される区切りでもあります。扶養控除は、納税者と生計を一にしている者の合計所得金額が48万円以下の場合に、納税者の所得から一定額が控除されるものです。扶養されている者がアルバイトなどで給与をもらっている場合、給与所得控除と合わせて103万円までの収入であれば、扶養控除が受けられます。
以前は配偶者控除も103万円以下で適用でしたが、配偶者特別控除ができたことによって、150万円以下となり、こちらの壁はなくなりました。また、150万円を超えても段階的に控除額が縮小されて201万円までは配偶者特別控除が適用されます。
◆社会保険に係る年収の壁
103万円の壁よりも大きく立ちはだかるのが社会保険の壁です。夫が会社員であれば、妻は夫の扶養に入ることができ、健康保険や年金の保険料を自分で支払う必要がありません。しかし、妻の収入が130万円を超えると、扶養から外れて、自分自身で社会保険料を支払う必要があります。これが「130万円の壁」です。社会保険料の負担は年収のおよそ15%と大きいため、こちらの壁を強く意識する人は多いと思います。
社会保険の壁には「106万円の壁」もあります。これは、「週の労働時間が20時間以上」、「賃金月額が8.8万円(年106万円)以上」、「勤務先の従業員数が51人以上」などの要件に当てはまる場合に、社会保険の加入が義務付けられます。
厚生労働省は、パート労働者などの社会保険の加入に併せて、手取り収入を減らさない取組をする企業に対し助成金を支給する「年収の壁・支援強化パッケージ」を実施しています。助成金は事業主に直接支給され、労働者は事業主から手当が支給されます。以上の措置は時限措置となっていますが、年収の壁を気にせずに働きたい希望を持っている従業員がいる場合、活用するとよいでしょう。
年収の壁の引き上げは議論されている段階で、決定事項ではないものの、実現する可能性は大いにあります。事業主の方は、今後の税制調査会や政府の方針に注意を払い、人材確保・人材定着を進めるための工夫を進めていきましょう。